研究会の経緯

2008年度

  第一回研究会
2009年1月31日(土)10:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
2009年2月1日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 大演習室)

《1月31日(土)》
印東道子(国立民族学博物館)
  「人類の移動誌研究:趣旨説明」
徳永勝士(東京大学)
  「ヒトゲノム全域の多様性解析の現状と展望」

《2月1日(日)》
赤澤 威(高知工科大学)
  「人類の移動誌を旧人と新人の交替劇に視る」

 初年度であるため、印東が「人類の移動」に関する先行研究を概観し、本研究の目的を以下の2点とした。1)現世人類による世界的規模の移動の様相を復元する、2)文系と理系の異分野の研究者による討論から、人類の移動のもつ特徴を明らかにする。
 徳永は、タンパクの遺伝的多型、ミトコンドリアDNAの多型、HLA遺伝子群の多型などからみた日本列島の集団形成の様子、個人レベルでのゲノムデータを利用した集団の系統樹などを紹介し、ヒトゲノムデータが人類の移動を明らかにするための有力な分析ツールであることを紹介した。
 赤澤は現生人類がアフリカから全世界に移動してゆくもっとも初期の頃に焦点を当て、同時期にヨーロッパで共存していたと考えられる旧人(ネアンデルタール)がなぜ絶滅し、新人がなぜ生き残ったのか、その交代劇の背景にあるものが脳容量の違いにあるという仮説を提示した。



2009年度

  第二回研究会
2009年7月4日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 大演習室)
2009年7月5日(日)10:30~12:30(国立民族学博物館 大演習室)

《7月4日(土)》
海部陽介(国立科学博物館)
  「アジアにおける原人の移動誌解明へ向けて:初期原人からホモ・フロレシエンシスまで」
小長谷有紀(国立民族学博物館)
  「モンゴル遊牧民の多様な移動」

《7月5日(日)》

木村亮介(琉球大学)
  「ゲノムデータからみる人類の移動と適応」

  第三回研究会
2009年11月14日(土)10:00~17:00(国立民族学博物館 大演習室)
2009年11月15日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 大演習室)

《11月14日(土)》
野林厚志(国立民族学博物館)
  「物質文化からみた台湾先住諸民族のユーラシア東部における位置づけ」
印東道子(国立民族学博物館)
  「海域世界への移動:拡散と出会い」

《11月15日(日)》

須田一弘(北海学園大学)
  「オーストロネシアンに取り残された人々:パプアニューギニア・内陸部と沿岸部の人々の生活」


 本年度1回目の研究会では、人類のアジアへの拡散をテーマに行われた。海部と木村は、古人類およびゲノム研究の最新の研究成果を報告し、アフリカ由来の Homo sapiensが6万年前以降に急速に世界へと拡散し始め、1万年前までには五大陸全てへ広がった背景には、文化・技術的な適応能力があったことなどを指摘した。小長谷は、その子孫であるモンゴル平原の遊牧民は、気候変動に左右された移動が多く、現在では市場経済の恩恵を求めた移動が多くなっていることなどを報告した。
 第2回目は、台湾からオセアニアにかけた海洋世界へと移動した人々に焦点を当てた発表が行われた。野林は、オセアニアへ拡散したオーストロネシアンの拡散元であると指摘されてきた台湾における人間移動が単純ではないことを指摘し、印東は、拡散旧石器段階で海を渡ってオセアニア地域へ移動した人々と、新石器文化を持って移動した人々が人的、文化的な接触をしていたことを示し、須田は、現在のニューギニアの人々の排他性からは、平和的な交流は考えられないことなどを指摘した。丸川は、本共同研究会の内容をホームページを使って広く発信するための内容デザインを提案した。



2010年度

  第四回研究会
2010年5月29日(土)10:00~17:30(沖縄県立博物館・美術館)
2010年5月30日(日)9:00~12:00(沖縄県立博物館・美術館)

《5月29日(土)》
海部陽介(国立科学博物館)
  「後期更新世のアジアにおける人の移動誌:港川人の再検討を中心に」
高宮広土(札幌大学)
  「南島中部圏へのヒトの拡散と適応過程」

《5月30日(日)》

米田 穣(東京大学)・中川良平(愛知教育大学)
  「琉球諸島へのヒトの拡散:陸橋はあったのか?」
石田 肇(琉球大学)
  「琉球諸島のヒト―過去から現代まで―」


  第五回研究会
2010年10月9日(土)10:00~17:30(国立民族学博物館・大演習室)
2010年10月10日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館・大演習室館)

《10月9日(土)》
中橋孝博(九州大学)
  「北部九州への渡来―渡来人と土着集団」
松本直子(岡山大学)
  「物質文化からみる人の移動と文化変化:九州を中心とした西日本における縄文・弥生移行期の様相」

《10月10日(日)》

小林青樹(國學院大學栃木短期大学)
  「縄文集団と弥生集団の相互交流と弥生文化・弥生社会の形成」


  第六回研究会
2011年1月22日(土)10:30~18:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)

山極寿一(京都大学)
  「類人猿はなぜ熱帯雨林を出なかったのか?:ヒト科の生態進化のルビコン」
松本晶子(琉球大学)
  「ヒヒのサバンナへの進出とその移動:地上性と季節性への適応」
池谷和信(国立民族学博物館)
  「「アフリカ狩猟採集民」の移動をめぐる環境史」


 本年度開催した3回の研究会のうち、第1回は旧石器文化人の日本への移動、第2回は日本内部の異なる文化段階の人間集団の関係、そして、第3回は人類学の周辺分野の研究者も交え、そもそも人類はなぜ移動を行ったのか、という本質的な問題について活発な研究発表とディスカッションが行われた。
 沖縄・港川遺跡出土の旧石器人骨は、本土縄文人とはあまり似ておらず、オーストラリア先住民やニューギニアの人びとにむしろ近いことが指摘され、旧石器文化段階で、すでに海を越えて日本に移動したことが明らかになった。また、弥生期に稲作を持って大陸から渡来してきた人びとと在来の縄文系集団は争いはせずに、むしろ平和的に文化の融合が速いスピードで行われたことが、遺物の共存関係や変化の様子から指摘された。
 人間がなぜ移動を行ったのかについては、災害原因、資源入手、病気など多様であり、移動のタイプにもさまざまなものがあるため、人類の移動をモデル化することの難しさも指摘された。


 
2011年度

  第七回研究会
2011年6月18日(土)10:30~17:30(国立民族学博物館・大演習室)
2011年6月19日(日)10:30~12:00(国立民族学博物館・大演習室)

《6月18日(土)》
佐々木史郎(国立民族学博物館)
  「人類はなぜ極寒のシベリアをめざしたのか」
片山一道(京都大学名誉教授)
  「人類はなぜ海を渡って東をめざしたのか」
松村博文(札幌医科大学)
  「東南アジアにおける言語・農耕拡散と人類の移動:古人骨から検証する」

《6月19日(日)》

斉藤成也(国立遺伝学研究所)
 「アジアにおける人類集団の遺伝的多様化と均等化」


  第八回研究会
2012年1月28日(土)11:00~17:30(国立民族学博物館・大演習室)
2012年1月29日(日)10:00~12:30(国立民族学博物館・大演習室)

《1月28日(土)》
関雄二(国立民族学博物館)
  「最初のアメリカ人に関する近年の研究動向」
篠田謙一(国立科学博物館)
  「DNA研究が明らかにする新大陸先住民の起源」
丸川雄三(国立情報学研究所)
  「画像資料の活用研究と移動誌への応用」

《1月29日(日)》

米田穣(東京大学)
  「同位体分析を用いた移動・移住の研究」


 

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